しゅでん日記!―支線― プロローグ「乗り過ごしにはご注意を」

俺の名前は虎鉄道馬、高校2年生だ。
俺は今、電車に乗って下校している最中だ。
学校を4時に出たものの、現在時刻はすでに深夜2時…。しかも、現在地は車庫…。
なぜかって?
……それは……わずか10分しか乗らない電車で居眠りして、終点まで行って、誰にも気づかれないまま
今に至ったからだ。
……席が空いてるからって座ると後々大変になることを学んだ俺だった…。
つーか、誰か気付けよ!俺はそんなに存在感ないっていうのか!俺はアッ○リーン!じゃねぇんだよ!
どうするよ、俺…。始発は5時くらいだったはず。そうだとするとあと3時間もこの状態ということになる。
トイレが……トイレがやべぇ……せめて駅でも一度入っとくべきだったか。
このままだと3時間は持たなさそうだから、車内捜索をしようと試みるものの、灯りが無い。どうやら
地下らしく月の光もない、完全な暗闇。
今日に限って携帯電話の充電が切れているし……。
しかし、やはりトイレがヤバいので、真っ暗な中、俺は非常時にドアを手動で開けられるようにする
アレの捜索を始めた。
手さぐりで捜索すること10分。ハンドルらしきものが手に当たったのでそれを回してみた。
すると、カプセルが転がってきた。ガチャポンだった。
さらに捜索すること10分。レバーらしきものが手に当たったのでそれを手前に引いてみた。いい匂い。
焼き鳥だった。
この会社は終電後に車内の見回りをしないのかと思いながら捜索することさらに10分。結局それらしい
ものは見つからなかった。
ここで俺は思った。ドアが開かなければ窓を開ければいいと。今度は窓の捜索を始めた。
捜索すること10秒。あっさり開いた。今までの俺がバカバカしく思えてきた……。
そして、窓から出たのはいいものの、暗闇でどこへ向かえばいいのか見当がつかない。
とりあえず電車を伝って歩いていると、どこからか男女2人の怪しい会話が聞こえてきた。
「さて、準備はできたか?」
「はい、お兄様。」
「では、やれ。」
「はい。」
「……これで、俺様の世界征服への道が切り開かれたぞ。
 ……これで、世界はやがて俺様の物に……驚いたか!フハハハハハハハハっ!」
すると次の瞬間、辺りは謎の光で包まれた。あまりの眩しさに俺は目を閉じてしまった。
30秒ほど経ち、目蓋越しに光を感じなくなったので俺は目を開いた。辺りは再び暗闇となっていた。
俺は何が起こったのか確かめようと、再び歩こうとしたが、かつて経験したほどが無いほどの咳が
出てきた。
そして意識が遠のき、ここで俺の記憶は一度途切れた。

意識が戻った時、俺は病院のベッドで横になっていた。医者の話によると、俺は昨日土曜日の朝に
この病院に搬送されていたようだ。
そしてその医者は、俺が倒れた原因について、こう語った。
「虎鉄道馬さん、あなたはどうやらアレルギーによる発作を起こし、意識を失ったようですね。
 アレルゲンがなんなのか調べてみたのですが、少なくとも一般的なアレルゲンではありませんでした。
 私ども、出来る限りあらゆる可能性を含めアレルゲンを探してみましたが、特定には至りません
 でした。」
俺は、分からずじまいのまま、その日の夕方に退院となった。なんて無責任な病院なんだと思いながら、
俺は帰路についた。
家に向かい歩いていると、誰かが後ろからつけてくるような気がしたので、俺は走ってみた。すると、
追いかけてこなかったので、単なる思いすごしだったようだ。一安心した俺は、ひたすら家に向かい
歩いていった。

1時間ほど歩くとようやく俺の家に到着した。鍵を取りだし、鍵を開けようとした瞬間、俺はあることに
気がついた。
家の中の灯りがついているじゃねぇか。
試しにドアノブを回し引いてみると、ドアは開いた。玄関に置いてあった鉄製の棒を手に、中へ入って
行こうとした瞬間、家中の電気が消えた。
俺は携帯電話の画面というわずかな明りを頼りに洗面所にあるブレーカーの元へ向かった。
そして、鉄製の棒でブレーカーのスイッチを操作しようとするが、暗くてうまくいかない。
何度か試してると、鉄製の棒が何かに当たった。“ちっ”という音が聞こえたが気にせずにブレーカーのスイッチを操作しようと鉄製の棒を動かしていると、
何者かにその棒を掴まれたような感覚がした。それと同時に、俺の記憶は再び途切れた。

次に俺の意識が戻ったのは早かった。時計を確認してみると、どうやら意識を失っていたのはものの
数分のようだ。
時計が確認できる……家中の電気が消えたはずで、ブレーカーのスイッチを操作しようとしたが、
復旧する前に意識を失ったのに、
部屋が明るいだと!?つーか意識を失った場所と戻った場所が変わってやがる!!これはもう
侵入者の仕業に違いねぇ!
俺は一番怪しい場所、ブレーカーがある洗面所へ向かった。そして、その扉をあけると、そこに黒っぽい
服を着た少女がいた。
「ちっ、いま修理中。」
「あ、すいません。
 じゃ、ねぇよ!てめぇは誰だ!なに人様の家に勝手に上がってんだコノヤロー!」
「ちっ、だからいま修理中って言ってるでしょ。」
「俺は修理なんぞ頼んだ覚えはねぇんだよ!つーか壊れてもいなかったんだよ!スイッチ操作
 すりゃいいだけのことだろうが!」
「ちっ、そんなんで済むのなら苦労はしない。壊れてるのは事実。だって、私が壊したもの。」
「おっまわっりさ〜ん!!」
「ちっ、もしも呼んだりしたら来世はないわよ。」
「現世はあるのか!」

「ちっ、ほら、直った。」
「……どこが直ったんだよ!!ブレーカー周りビリビリ言ってんじゃねぇか!!」
「ちっ、部屋の電気とかはついてるでしょ。」
「そういう問題じゃねぇんだよ!!110番されたくなかったら、せめてこのビリビリを止めやがれ!!」

「ちっ、止めてやったわよ。」
「ビリビリからバチバチに変わっただけじゃねぇか!音の聞こえ方なんてどうでもいいんだよ!!
 この漏電を止めろっつってんの!俺は!!」

「ちっ、これで文句ないでしょ。」
「確かに止まったけど家の中が真っ暗なんだけど!!
 お前いい加減にしろや!!マジで警察呼ぶぞ!コラぁ!」
「ちっ、だったら呼んでみなさいよ。言っとくけど警察なんかに私を捕まえることなんて
 できないから。」
「警察は最強だぞ!!お前なんて不法侵入・器物損壊で即刻逮捕だ!!」
「警察が逮捕できるのは人間だけ。私、人間じゃないから。」
「は?」
「私、電車なの。」
「お前、電波さんなのか?」
「ちっ(激怒)」
「んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!」

俺は、三度意識を失った。

「って!!これ以上失ってたまるかぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」
「ちっ、しぶといやつ。私の電撃をくらって死ぬどころか意識を保っていられるなんて。」
「電撃!?まさか、スイッチを操作しようとした時に意識を失ったのも電撃か!?」
「ちっ、あんたが私の頭を叩くからよ。」
「あ、すいませーん……。
 じゃ、ここはお相子ってことで、110番しないのでさっさとこの家から出ていってもらえませんか?
 ブレーカーとかもういいので!!」
「ちっ、せっかくあんたの鉄道アレルギーを治す方法を教えようと思ったのに。
 でも、もういいなら出てく。」
「お前!?なんで鉄道アレルギーのことを知ってやがる!?医者以外誰もまだ知らねぇはずだぞ!?」
「私、あんたが地下の車庫で閉じ込められた時にいた電車。
 だから、あんたが“俺はそんなに存在感ないっていうのか!俺はアッ○リーン!じゃねぇんだよ!”と
 言ってたのも知ってる。」
「まさか聞かれてたとは……。」
「まぁとにかく、私に協力してくれるなら、鉄道アレルギーを治す方法を教えてあげる。」
「協力?」
「そう。協力。私と同じように電車から人間にされたのを探し出して、世界征服を止めてほしい。」
「ちょっとまて、にわかには信じがたい話だし、いろいろ飛んでいる気がするが、電車から人間に
 されたって受身で言ってるっつーことは、
 望んで人間になったわけじゃねぇってことか?」
「少なくとも、私はそう。ただ、他のはどうだか。一度も会ったことないし。」
「……いろいろ聞きてぇことはあるが、全部聞いてたらキリがなさそうだから……
 そうだな、3つに絞って質問させてくれ。
 まずひとつ。お前を電車から人間に変えたっつうやつは誰だかわかってんのか?」
「あの日、地下にいた2人組。それが誰だかは知らない。」
「じゃあふたつ。電車から人間に変えられた目的は知ってんのか?」
「それなら、私のデータにインプットされてる。」
「なんだ?目的は?」
「世界征服。私たちはこれを達成するための兵士みたいなもの。」
「……あのぉ、やっぱり出ていってもらえません?電波さんはどこぞの河川敷にいってもらえません?」
「ちっ(激怒)」

放たれた電撃を受けたが、俺は電撃に耐えた。

「なにすんじゃぼけ!!死んだらどーしてくれんだよぉ!この作品終わっちまうぞ!!」
「ちっ、こんな作品終わっても問題ないでしょ。
 それよりも、私が言ってるのは全て事実。信じる信じないはあんた次第だけど。
 じゃあ次、3つ目の質問。」
「あれれぇ?なんか俺の質問盗られてねぇ?」
「あんたは協力してくれるのかくれないのか。」
「協力、ねぇ……。」

こいつの言うことに信ぴょう性があるかどうかというと、どう考えてもない。だが、地下での一件を
知っていることは、こいつがあの場にいた
電車だったとするならば説明がつく、百歩譲って。まぁ、こいつが謎の2人組の片割れという可能性も
あるが。
……ちょと待てよ、こいつが仮に電車から人間にされたやつだとしたら、
俺の鉄道アレルギーが反応するはずじゃないのか!?

「なぁおい、最後に質問していいか?」
「却下。」
「なんでだよ!!3つ目の質問はお前が勝手に盗んでっただけなんだからいいだろ!!」
「ちっ、しかたがない。」
「お前は電車から人間にされた、仮に電車人間としよう、だとしたら、鉄道アレルギー持ちの
 俺がアレルギー反応を起こすはずなんじゃねぇのか?」
「なんだ、そんなことか。そんなの簡単よ。あんたが私にアレルギー反応起こして咳ばっか
 しながら話してたら進みが遅くなるから、
 サンダーガードで電車成分が私の周りに拡散しないようにしていたの。」
「なに!そのサンダーバードみたいな名前は!!つーかどういう原理でそうなるのか意味
 分かんねぇんだよ!!」
「ちっ、ならこの技、解除する。」
「あーいやいやいやいや!!待て!!原理はわかんねぇがご都合主義的
 ガードはそのまんまにしといておくれぇぇ!!」
「で、協力してくれるのかくれないのか。」
「そうだなぁ……。」
「もし協力しないなら、あんたをここで電気で丸焦げにするから。」
「……あぁもう分かったよ!協力してやんよ!」
「よく言ってくれた。じゃあ私と契約を結びましょう。」
「契約を結ぶ?」
「こことこことここに必要事項を書いて、印鑑押して。」
「リアル契約書なんだけど!!!」

こうして、謎の少女に半ば強制的に協力することになった。
俺の平和で穏やかだった日々を返しておくれぇ!!

第8話へ続く

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