しゅでん日記!―本線― 第1話「初バイト!」 【7月の月曜日】

週の始まり、大河は登校している最中だった。
歩いていると、途中で神山紗耶香という同じ高校・同じクラスの幼馴染と合流した。
「おはよう、紗耶香。」
「あら、おはよう、大河。今日もいつもと同じ時間なのね。よく遅れたりしないわね。」
「いや、紗耶香だってそうでしょ?」
「違うわ。鉄道はいつも正確に走るのだから、鉄道好きの私としては身勝手な理由で遅れるわけには
いかないの。」
「いや!紗耶香は人間じゃん!」
「“鉄道”を嗜むものとして、時間にルーズではだめなのよ。」
「なに!“鉄道”って!!なんで柔道とか弓道みたいな言い方で言うの!!」
「戦車道があるぐらいなんだから、別にいいじゃない。」
「いや!そういう問題じゃなくてさ!!」

何気ない会話をしながら歩いて行くと、今度は学校近くで虎鉄道馬という、この春、この高校で同じ
クラスで知り合った友人である。
「おはよう、道馬。」
すると、虎鉄は大きなあくびをしながら挨拶を返した。
「……おう、おはよう、大河。」
「どうしたの道馬?なんか眠そうだね?また徹夜で勉強していたの?」
「中間テストが終わった今、んなことするわけねぇだろうがよぉ。」
「そうよ、大河。こんな見た目の虎鉄が勉強なんかするわけないじゃない。」
「こんなとはなんだ!人を見た目で判断すんじゃねぇよ!!訴えるぞコラァッ!!」
「でも、道馬はテスト前日以外やらないでしょ?」
「……まぁな。」
「一夜干しというやつね。」
「いやいや!干物じゃないんだから!」

そして、瞬く間に一日が過ぎ、既に放課後の教室。いつもは一緒に変える大河と神山だが、今日は
大河は急いでる様子だった。
「大河、急いでるみたいだけど、用事でもあるのかしら?」
「あれ?前に言わなかったっけ?今日からバイトで、これから行くところだよ。」
「そう言えば、行っていたわね。大衆食堂だったかしら?」
「レストランね!レストラン!」
「なんで私と同じ駅員のバイトにしなかったのよ?」
「だって僕、あまり電車の知識が無いからね、だからレストランの方が無難かなって思ったからだよ。」
「知識何て無くても、やっていれば自然と覚えていくものよ。私のバイト先に、電車が乗り物だと知らずに
入ってきた人もいるし。」
「知識が無いにも程があるでしょ!」

「ところで大河、ツッコミばかりやっているけど、時間は大丈夫なのかしら?」
「そうだった!!こんなことしてる場合じゃなかった!!じゃあまた明日ね、紗耶香!」

学校を後にしてバイト先のレストランへ急いで向かった。そして、時間ぎりぎりにレストランに到着した。
レストランの中に入ると、白岡が出迎えた、駅員姿で。その姿に大河は、沈黙したのちに1ツッコミ。
「……またコスプレですか!!」
「コスプレですか?違いますよ、これが私の仕事着ですので。」
「……え?」
そしてレストラン近くの駅に移動させられ、
「…………え??」
渡された制服に着替えさせられた。
「えぇぇぇぇぇぇーーーーー!?」
「どうしてそんなに驚かれているのでしょうか?」
「いや!驚くも何も、レストランのバイトは!?」
「レストランのバイトとは一体何のことでしょうか?」
「レストランに貼ってあった募集の広告見て応募したんですけど!?」
「レストランに貼ってあった広告ですか?」
白岡が少し考えた後、何かを思い出したのか、笑顔でこう言った。
「そういえば、募集主を書き忘れていました。」
「なんて重要な事を書き忘れて……。」
「そんなに落ち込まないでください。これも何かの縁です。駅員の仕事をやってみませんか?」
「駅員の仕事ですか……まぁ自分からやろうとする機会は無いですし……でも、知識が……。」
「この仕事、今やらないでいつやるの?」
「今でしょ!
って、僕としたことがまた乗ってしまったぁぁーー!!」
「ありがとうございます。では、これからよろしくお願いしますね、大川さん。」
「あ……はい、こちらこそよろしくお願いします……。」

白岡に挨拶を終えると、後ろからどこかで聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あら?大河じゃないかしら?」
「紗耶香!?なんでここに!?」
「なんでって、駅員姿でここに居るのだから、ここのバイトをしているに決まっているじゃない。」
「駅員ってここの駅のだったの!?」
「そうよ。言ってなかったかしら?」
「いや、駅って言われただけで、どこの駅でやってるかまでは聞いてないよ!」
「駅って言ったらここの駅に決まってるじゃない。私のパソコンだって“えき”って入力するとここの駅が
出てくるし。」
「いや!それユーザー辞書登録してるからでしょ!!」

「お二人ともお知り合いですか?」
「あ、はい、幼なじみです。」
「幼なじみですか。よくある分かりやすい設定ですね。」
「設定とか言わないでください!!」
設定と言った時の白岡の表情は、全く悪気のない笑顔だった。

「それでは丁度いいので、大川さんの教習は神山さんにお願いしてもよろしいですか?」
「ええ、大丈夫よ。」
「それではお願いします、神山さん。よかったですね大川さん、引き取り手が見つかりまして。」
「僕、捨て猫!?」
やはり白岡の表情は全く悪気のない笑顔だった。

二人は早速改札に移動した。
「それじゃあまずは、この会社の電車の魅力について教えるわよ。」
「仕事を教えてよ!!」
「仕方ないわね、じゃあまずは駅でどんな仕事をするのか、見ててもらうわ。そして、お客さんが
来たその都度、教えていくわ。」
「うん、わかったよ。」
そして改札に立つこと30分。
「……誰も来ないね。」
「そうね。こんなこともあるわ。」
さらに立つこと30分。
「……ここって割と大きい駅だよね。」
「そうね。会社の中では乗降者数5位だわ。」
さらにさらに立つこと30分。
「あ、交代の時間だわ。」
「なにも教えてもらってないんだけど!!」

二人は交代者が来るのを待った。しかし来ない。待てど暮らせど来ない。30分経っても来ない。
そして、交代時間から1時間過ぎた時、やっと交代者が来た。
「おっつかれ〜!!いや〜ゴメンゴメン!遅れちゃってさぁ〜!あ!なんかお初な人がいる!!」
「は、始めまして、今日から働くことになった、大川大河です。よろしくお願いします。」
「あたし、理恵!永沢理恵!ヨロシク!大河ってことは、電気ポット、略してデンポって呼んでいい?」
「いやダメですよ!!」

「理恵、今日も遅刻ね。」
「も?」
「いや〜遅延しててさぁ〜!」
「あれ?今日電車遅れてましたっけ?」
「朝は原因不明の停電で一時運転見合わせしたみたいだけど、午後は遅れていないはずよね?」
「電車じゃないよ!自転車だよ!」
「自転車の遅延ってなんですか!それただ単に出発時間遅かっただけじゃないですか!!」
「いやいや〜それが、違うんだよね〜大川君!」
「何が違うんですか!!」
「バイトに間に合うように、あたしはちゃんと学校を出発したんだよね〜
が、しかぁ〜し!!
自転車で颯爽と走っていると、あたしの顔に紙がばしゃっと!!もうばしゃっと!!
付いたわけなんですよね!!
で!その紙を顔から剥がしたところ、紙に何か書かれてたから、読んでみるとそこにはァァァァ!?
なんと!!“まきますか”“まきませんか”って書かれていたんだよ!!」
「胡散臭さ100%じゃないですか!」
「それで、みんなは私がどっちに○つけたかすごォォォ〜く気になってると思うけど、その答えは……。」
「誰も気になってないと思いますよ!現に僕、全然気になってないですし!!」
「あたしはどっちにも○をつけなかった!!なぜなら、そんな簡単に今後の人生に関わっちゃうことを
決められないから!!
どうしようか悩んでるあたしが紙の端の方に目をやると、なんとそこには!!
“後で確認する”っていう選択肢があったから、あたしはそれにチェックして足早にバイト先へ向かったと
いうことなんですよ!!」
「ウェブブラウザのセットアップ画面か!!」

第2話へ続く

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