しゅでん日記!―本線― 第2話「精算!」 【7月の火曜日】

学校が終わり、バイト先の駅へ向かう大河と神山。
「そういえば、あのバイト先って、どんな人がいるの?」
「そうねぇ、一言じゃ表せないわ。」
「いや!そりゃそうでしょ!複数人いるのにたった一言で片づけられたら悲しいから!!」
「でも、四字熟語で表すなら、」
「四字熟語だと表せちゃうの!?」
「そうね、“変人過多”かしら。」
「そんな四字熟語無いから!」

そして、駅に着いた2人を永沢が待ち伏せていた。
「あら、珍しいじゃない。私より先に駅にきて、さらには着替え終わってるだなんて。」
「ふっふっふーんっ!あたしだってそういつもいつも遅刻するわけじゃないんだから!!」
「そういえば理恵、あんたって今日勤務入っていなかったような気がするんだけど?」
「……え!?」
永沢は真っ白に固まった。

「行くわよ、大河。私たちは勤務なんだから。」
「え、あ、うん。」
制服に着替え、支度を終えた2人が交代の為に改札に行くと、そこには永沢が立っていた。
「永沢さん!?勤務なかったはずじゃないんですか!?」
「ふっふっふーんっ!甘いよ!大川君!確かに私はさっきまで今日は勤務に入っていなかったし入る
予定も無かった!!
が、しかぁ〜し!!それは今となっては過去のお話!!」
「時間がないんで、簡潔に言うか後で言うかどっちかにしてください。」
「じゃ学校で!!」
「はい、じゃあ学校で……って、なんで学校!?」
「だって二つ隣りのクラスじゃん!!キミはA組で私がC組!!」
「同じ学校、同じ学年だったんですか!?」
「そうだよ!だからさぁ〜そんな敬語なんてやめて、和気あいあいと語り合おう!大川君!!」
「いやでも、バイトでは先輩なわけですし、ため口って言うのは……。」
「それならご安心を!!なぜなら!!キミもあたしも昨日が初バイト!!」
「え!?うそでしょ!?だって、遅刻の常習犯みたいな話してたじゃん!?」
「自慢じゃないけど面接を皮切りに、書類記入・制服採寸・制服受け取りなどなど、全てのイベントに
おいて遅刻しているのである!」
「そんなに遅刻して、採用取り消しにならないんなんて、ある意味本当に自慢だよ!!
っていうかよく採用したね!」
「白岡さんだからよね。」
「白岡さんだもんねぇ〜!」
「そうだね、白岡さんだもんね……。」
「私がどうかしましたか?」
「し、白岡さん!?」
「いえ、白岡さんが適当という話をしていたのよ。テストとかに出てくる適当という意味で。」
「さ、紗耶香!?なに言ってんの!?」
「白岡さんはすごーく適当だと言う話をしてたんです!!テストとかに出てくる適当という意味で!!」
「永沢さんまでなに言ってんの!?」
「少し照れくさいですが、ありがとうございます。」
「バカにされてるの気付いてないよ!この人!!」

「そういえば、先程皆さんの履歴書を見返してて気付いたことですが、みなさんに衝撃の事実が
あります。」
「なんですか?」
「あなた方全員、同じ高校だったんですよ。」
「もう知ってます!!」
皆が知っている衝撃の事実を告げた白岡駅長は、その場を去った。

「で、交代よ、理恵。」
「あたし、ウィルスに勝てるの!?」
「それは抗体だから!!」
「ふっふっふ〜んっ!!そんなに改札を変わってほしけりゃ、あたしと勝負だ!!」
「ならいいわ、私たち中で休んでいるから、後は頼んだわよ。」
「あぁ〜待ってぇ〜!!あたしは改札に立ちたいんじゃなくてただ遊んでほしかっただけなのぉ〜!!」
「仕事を一体なんだと思ってんの!!」

そして、なぜか3人で改札に立つことになった。
「でさぁでさぁ!!なにする!?何して遊ぶ!?
あっ!!ここにちょうど椅子があるから椅子取りゲームする!?しよ!!」
「いやだから遊びじゃないんだから!!
それに曲が流れて回ってる最中にお客さん来たらどうすんの!?」
「窓口側に来た人が対応すればいいんじゃないのかな!!」
「回ってたら一人一文字しか言えないじゃん!!っていうかお客さんも“なになに!?何事!?”って
なっちゃうから!!」
「ならテンポをさげればいいんだよ!!」
「いや!そういう問題じゃないから !!」
「じゃあお客さんが来た時に曲を流し始めて、言葉を曲に乗せて身振り手振りも加えながら
対応しよう!!」
「もうそれただのミュージカル!!」
「あぁ〜でもそっかぁ〜、ミュージカルだとお客さんも仕込んでないと出来ないし、これはちょっと
問題かな??」
「遊ぼうとしてる時点で問題だから!!」
「よし!じゃあさぁ!ここは初心に戻って、お客さんとにらめっこしよう!!」
「どう初心に戻ったらそうなるの!!」
「あたしは今、所信表明をする!!にらめっこで国民を笑顔にし、ニッポンを立て直す!!」
「ニッポンを立て直す前にいまここでのやり取りを立て直して!!もうぐだぐだ!!」
「フェアリーズいるの!?」
「確かに低予算だけど居ないから!!」

「ふっふっふ〜んっ!!そんなにこのぐだぐだどうにかしてほしいなら、あたしがどうにかしてみせようじゃないか!!
一世一代の大仕事!さぁ、行くよ!!」
「いや!そこまで懸けなくていいから!」
「じゃあさやっち!!あとはよろしく!!」
「さじ投げたよこの人!!」
永沢が改札から立ち去ろうとした時、窓口に男女二人のお客さんが来た。
しかし改札に居た3人は、そのお客さんの姿に唖然とした。
なぜならその二人は、ファンタジーで出てくるような如何にもな悪役の格好をしているからである。
そして、男の方が大きな声で喋り始めた。
「驚いたか!フハハハハハハハハハ!!」
しかし何に驚けばいいのかわからない。その服装か、その服装なのか。3人ともが同じことを考えて
いると、男がまた喋り出した。
「どうした!?最近の駅員は精算すらできないのか!!そんな無能どもがこの駅を征服しているとでも
いうのか!!この鉄道は!!」
あまりにも異常な言動のお客さんに3人はお客さんに聞こえないように後ろを向き、ひそひそ声で
ミニ会議を始めた。
「なんなのかしら、この人たち、病院に連れてった方がいいのかしら?
とりあえず大河、あんたが対応しなさい。」
「えーっ!?なんで僕が!?」
「そうだよ!!ここは大川君が立ち向かうんだよ!!」
「だからなんで僕が!?まだ二日目なんだけど!?」
「あたしも二日!!」
「私も二日よ。」
「最後の一人は違うでしょうが!!」
何も対応しない駅員に対し、男がクレームを言って来た。
「なんだ貴様ら本当に駅員なのか!?それでも鉄道員(ぽっぽや)なのか!!
よしいいだろう、貴様らよ、喜ぶがよいぞ!!
こんな無能どもしか育成することのできない無能なボスではなく、有能なこの俺様の下に就くことが
できるのだからな!!
驚いたか!フハハハハハハハハ!!」
3人はひそひそ声でミニ会議を続けた。
「えぇー!?なんか話がすごい方向に向かってるんだけど!?」
「大川君!!頑張って!!」
「永沢さんもだよ!!」
「ほら、私って本来なら今日勤務入ってないんだし、関係ない関係者だよ!!」
「関係者じゃん!!無理矢理勤務変わったり改札で遊ぼうとするから罰が当たったんだよ!」
「落ち着きなさいよ、二人とも。こんな時こそ、冷静に対応するのよ。相手を興奮させるような言い方を
しては、逆効果よ。」
「壁に向かって何言ってんの!!まず紗耶香が落ち着いてぇぇぇ!!」
さらに男は、先程のクレームの続きを喋り始めた。
「それにしても、大手のこの鉄道がこんな無能どもの集まりだったとは、全くもって驚きである!!
驚かされたぞ!フハハハハハハハハ!!
さぁ、貴様らよ!!有能なこの俺とともに、この無能どもの集まりである鉄道を征服し、有能な奴らの
集まりにしようではないか!
そして、あわよくば、この鉄道を踏み台に、俺様は世界征服を達成させて見せようではないか!!
驚いたか!フハハハハハハハハ!!」
ミニ会議、継続中。
「ほら!大川君!!早くなんとかしないと、会社どころか世界がこの人たちのものになっちゃうよ!!」
「いやいや!そんなこと言われても!っていうか、なんで鉄道会社を征服すると世界征服ができる
みたいな感じになってんの!!」
「それはきっと、ギャグだからよ。」
「知ってるよ!!つっこみにつっこみ重ねないでくれる!?」
「つっこまれたらつっこみ返す……倍返しだぁぁぁ!!」
「こら!そこ!ボケない!!僕がつっこみ疲れるから!!」
一向に精算をしない駅員に対し、男はこう言った。
「最初は間違ってもよい!最初から出来る者などこの世に存在しないのだからな!!
さぁ精算するがよい!!たとえ精算が間違っていたとしても、もう貴様らは仲間だ!
いや、なまかだ!!」
いまだに続くミニ会議。
「古っ!!なんなのこの人!?言い直してまで古いネタ混ぜてきたよ!!」
「えぇ〜どうしよぉ〜精算したら仲間になっちゃうよぉ〜。」
「もう、今回は精算しなくていいんじゃないかしら?そのまま通しましょうよ。」
それでも精算しない駅員に、男はこう言った。
「精算が全くできないというならば、俺様が0から教えてやろうではないか!さぁ!俺様に付いて
くるがよいぞ!!」
「精算してもしなくてももう仲間になる道しかないよ!!どうしよう!!」
「どうしようって言われても、僕にはどうにも……。」
「二人とも、私にいい考えがあるわ。」
「なになに!?さやっち、なに!?」
「本当に!?ボケとかじゃなくて!?」
「当然よ。ボケキャラがボケキャラとして成立するのは、周りにボケが一人だけの時か同じ程度の
ボケキャラがいるときだけよ。
ボケキャラをはるかにしのぐ超ボケキャラが登場した時は、ボケキャラはツッコミキャラに
ジョブチェンジするのよ。
って、お昼の情報番組しろおび!でやってた気がする。」
「んなこと言わないと思うよ!?
で、考えって言うのは?」
「仲間にしようと、執拗に私たちに言ってくる。これはもはや訪問販売っていうやつよ。
だから、訪問販売を断る時と同じ文言で解決すると思うの。
ちょうどこの間、しろおび!でやっていたから、私に任せておきなさい。」
「ひゅーひゅーさやっち!頼りになるぅっ!!」
そして神山はお客さんの方を向き、訪問販売を断るかのようにこう言った。
「忙しいので、帰ってもらえませんか?」
「仕事放棄したぁぁぁーーー!!」
この発言に、さすがの男も真面目にこう返した。
「忙しいだと!?貴様ら、これが仕事ではないのか!?」
男のごもっともすぎる意見に、誰も反論できなかった。
大河たちが困っていると、男の後ろに一緒に居た無口な少女が口を開き、男に対してこう言った。
「……お兄様、後ろに列ができています。ここは一度引いた方がよろしいかと思われます。」
「おぉそうか!ではしかたがない!!喜べ!無能な駅員ども!!
今日のところは順番待ちの客に免じて見逃してやろうではないか!!驚いたか!フハハハハハハハハ!!
また会おう!サラダバー!!」
「……それを言うなら“さらばだ”です、お兄様。」
「おぉ!そうだ!!一つ言い忘れていたぞ、無能な駅員ども!!
我が名はバルバトス!そして!」
「……カミーナ。」
「二人合わせてブラックダークネス!!以上だ!!驚いたか!フハハハハハハハ!!」
そして、改札を出ず、そのままホームへ戻って行った。
「何だったんだろうね!?今の!!」
「きっと、この鉄道の幹部が駅員の接客度を見に来たのよ。」
「だとしたら僕は即刻やめるよ!!」

第3話へ続く

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