しゅでん日記!―本線― 第4話「改札機!」 【7月の木曜日】

駅にて。改札に立っていた永沢と交代するために、改札に来た大河。
すると、永沢は真面目な顔で大河にこう言った。
「ねぇ、大川君。あたし、思っちゃったの。」
「えっと、なにが?」
「改札機の切符を通すところにイカを入れたら、のしいかが出来上がると思うの。」
「真面目な顔で何を言うかと思ったら、どんだけくだらないこと考えてたの!!」
「あ!?新しいICカード“Iica(イイカ)”ってどうだろ!?」
「よくないよ!!」

「え〜そこは“それでもイイカ”ってつっこむんじゃなイカ?」
「いやだって、僕がそこで乗っちゃったら、永沢さん絶対に調子に乗ると思うし。」
「大川君、私が調子に乗ると思う!?」
「キラキラした目で言わないでください!」

「イカと言えば、大川君、胴体とげそ、どっちが好き?」
「そうだね、げそかな?」
「げ、そーなの!?」

「ふっふっふーん!実は私は胴体の方が好きなのさ!どうたい?驚いたカイ?
あ!!どうしよ!!語尾がイカからカイに変わっちゃったよ!!」
「どうでもいいよ!!」

そして永沢が去り、そこから1時間ほど経過した今、大河は改札を別の人と交代して事務室に
戻って行った。
その事務室に入った途端、イカ臭さが大河の鼻にも届いた。
「イカ臭っ!」
「あ、大川君!君もスルメ食べる!?炙りたてだよ!!」
「いらないよ!っていうかこれ焼くためにわざわざ持ってきたの!?こんなに大きいの!?」
「違うよ!最初は普通に焼き肉しようとしたんだけど、急にイカが恋しくなっちゃってさ!!」
「駅に七輪持ち込んでくる時点で普通じゃないでしょ!」

「そうだ!大川君!君にとっておきのパスケースをあげよう!」
そういって永沢は大河に焼いたイカを手渡した。
「使い方は簡単!胴体に定期券を入れれば出さずにピピッと!
災害時には食料にもなる優れ物!」
「いらないよ!こんな生臭いもの!!」

「そういえば、イカはさぁ〜、」
「いつまでこの話題続けるの!?電車関係に戻ろうよ!!」
「関係あるじゃん!!ガスバーナー持参で電車に乗れば網棚で焼けるよ!!」
「そんなことやったらツ○ッターとかに写真あげられてネットも電車も炎上しちゃうから!!」

「もうさ、イカから離れようよ、ね?永沢さん。」
「しょうがないなぁ〜もぅ〜!
じゃあ……人類侵略を、」
「全然離れてないよ!頭の中をイカに侵略されてるの!?」

「海の家れも……」
「しつこい!」
その後もイカネタを執拗に続けた永沢は、交代時間になったため改札へ向かった。

「はぁ、やっとイカ地獄から抜け出せた……。」
「おや、大川さん、お疲れのようですね。」
「あ、白岡さん、お疲れ様です。」
「はい、お疲れ様です。
これは一体何でしょうか?」
「ああ、これは七輪です。」
「なるほど、これが七輪なのですね。初めて拝見しました。結構大きいものなのですね。」
「あ、すみません、こんな大きいもの置いておいたら仕事の邪魔ですよね、すぐどかしますね。」
「それでは、私がどかしますよ。」
「えぇ!?良いんですか!?」
「はい。」
すると、白岡駅長は七輪を押し始めた。しかし、摩擦が大きすぎて動かない。
それでも白岡駅長は押し続けた。
「全然動かないですね。もしかしたら、車輪が壊れているのではないでしょうか?」
「七輪に七つの車輪なんて付いていません!!」
結局、二人で持ち上げて移動させた。

しばらくすると、大河が再び改札に立つ時間がやってきたので、改札へ向かった。
そこにいるのは、またしても永沢だった。
「ねぇ、大川君。あたし、思っちゃったの。」
「どうせ、梅と寒天を改札に通せば、のし梅ができる、とか言いたいんじゃないの?」
「ふっふっふーん!…………。」
「図星!?」

永沢は、しょんぼりした様子で静かに事務室に戻って行った。
その様子に、大河は言いすぎたかとも思ったものの、数分後、その気持ちはすぐにかき消された。
なぜなら、仕事を終え駅員制服から学校制服に着替えた永沢が改札機の前に立ち、大河のいる
窓口の方を見てニヤリと笑った上に、その手には生のイカを携えていたからである。
その様子に、大河は窓口から永沢に向かって大声で叫んだ。
大河:「永沢さん!!ダメ!絶対!そんなの入れたら改札機が壊れちゃうから!!」
しかし、その掛け声はむなしく、永沢は改札機の切符挿入口にイカを持った手を近付け、
入れようとした。
入れようとした永沢だったが、生のイカでぬるぬるでよく滑るため、永沢の手からつぬるんっと離れて
しまった。
永沢の手から離れたイカは改札機と改札機の間を通り抜ける際、センサーに反応して改札機の扉が
閉まってしまった。
その閉まった扉に当たったイカはピンボールの要領で弾き返された。
弾き返されたイカは通りすがりの乗客目がけ飛んで行ったが、これに驚いた乗客は飛んできたイカを
手で払った。
手で払ったイカは改札機上の看板に当たり、失速したためにそのまま改札機床に落ちた。
すると落ちたイカの所を別の乗客が走り抜ける際、その乗客はイカに足を滑らせ転倒、イカは反動で
上に大きく舞い上がって行った。
その舞い上がったイカをたまたま目にしたテニスプレイヤーが、持っていたラケットでイカを打ち返した。
打ち返されたイカが飛んでいく先には、偶然居合わせたバドミントンプレイヤーが居て、持っていた
ラケットでスマッシュを決めた。
スマッシュを決め込まれ再び打ち返されたイカだったが、今度は無名のプロ野球選手(キャッチャー)が
そのイカをキャッチした。
だが、つぬるんっとグローブをすり抜けたイカはたまたま駅で行進していた音楽隊のトランペットの中に
入り込んでいった。
これに驚いたトランペット奏者は楽器を振り回し、遠心力で中から出てきたイカは胴体とミミ部分が
分裂し、胴体はテニスプレイヤーの元へ、ミミはバドミントンプレイヤーの元へそれぞれ飛んで行った。
やはり二人とも打ち返し、ちょうど二人の中間距離で激突し再び合体したイカは、先程の音楽隊の
指揮者の元へ飛んでいった。
イカ恐怖症だった指揮者はイカを指揮棒で投げ払い、それは先程の無名のプロ野球選手(キャッチャー)
と待ち合わせの為に突如登場した
無名のプロ野球選手(バッター)は持ち合わせていたプラスチック製のバットで打ち返した。
打ち返されたイカは駅舎の屋根を付きぬけど飛んで行った。
飛んで行ったイカはたまたま上空を飛行していたヘリコプターのプロペラに巻き込まれて輪切りに
された。
輪切りにされたイカは記録的な猛暑により熱せられ、夜になっても温度が下がらないマンホールの蓋の
上に落下し、焼かれ始めた。
焼かれてる最中、上空から醤油瓶がたまたまイカを焼いているマンホールの蓋へと降ってきた。
そして最後に、たまたま偶然図らずも思いがけずその場に登場した永沢が、焼けたイカを皿に盛り、
駅へと持って帰ってきた。
「はい、大川君!イカの醤油焼き!」
「なにこの無駄に複雑にした調理法は!?ピタゴラス○ッチか!!」

大河が勤務を終え着替えた後、事務室内の休憩室にに行くと、1時間ほど前に勤務を終えた永沢が
居た。
「あれ?永沢さん、まだいたの?」
「うん、まだいたの。」
そう答えた永沢からは、いつものような元気オーラは感じられなかった。
大河が永沢に何かあったのか聞こうと思い口を開いた瞬間、先に永沢が声を出した。
「ねぇ、大川君って自分で登った木から下りて来られなくなったネコって見たことある。」
「い、いや、無いかな。」
「じゃあさぁ、もしそういう困っているネコを見かけた場合は大川君ならどうする?」
「そうだね、僕だったら木に登って助けに行くかな。」
「でも、助けたところで大川君になんの得も無いよ?」
「確かに僕には得は無いかもしれないけど、損も無いからね。」
「じゃあ、その木がこの木なんの木的な木でも助けに行く?」
「あぁいやぁ、ちょっとあのサイズは……。
まぁでも、もしも僕がそんな困ってる状況に遭遇した場合、損得なんて考えずに助けに行くと思うよ。」
「ふ〜ん、そっかぁ。」

そして、永沢はなにか考えている様子でしばらく黙り込んだ後、再び声を出した。
「じゃあ、大川君、あたしを助けて。」
「た、助ける?なにを?」
永沢が指で指した方向を見ると、そこには七輪が。
「永沢さん、もしかして……。」
「重すぎて持って帰れなくなっちゃった!!てへっ!!」
「てへっ!じゃないよ!神妙な面持ちだったから、なにか重大な事があったと思ったのに、思いっきり
自業自得じゃん!!」
「でも、木に登ったネコだって自業自得じゃないの!?」
「いや、ネコだったら、例えば野良犬に襲われて、逃げるのに専念した結果降りることを忘れたって
いう非常事態かもしれないじゃん!」
「腰と腕が痛みに襲われた!!」
「それただの筋肉痛!!
っていうかよく行きは持ってこれたね!!」
「いや〜来る時はノリとテンションで持ってこれたんだけど、終わって変える時となると、ノリも無いし
テンションも下がっちゃってねぇ〜!
でも、よく言うじゃん!ノリとテンションを制するものは力を制するって!」
「知らないよ!そんな軽いノリの格言!」

そして、永沢と大河は近くのホームセンターに七輪を載せるための台車を購入しに行った。
「おぉ!七輪が売ってるよ!!どれにする!?」
「これ以上に荷物増やしてどうするの!!」

そして、二人は台車売り場へと行き、大河が丁度好さそうな台車を見つけた。
「この台車でいいんじゃないかな??
値段が安いし、でも耐久性ありそうだし。」
「そうだね!そうしよう!
ちなみに、うちにも台車があるからこれは代車だね!!」

永沢が台車を引きレジへ向かった。しかし、会計の最中で戻ってきた。
「どうしたの?なにか他に買うものあった?」
「いや、そうじゃなくってさぁ……。」
「じゃあなに?」
永沢:「この台車は野口さんざっと2人分なのにあたしの手下には今現在鳳凰堂3棟と稲穂1本しか
ないというわけなんですよ!!」
「要は35円しか持ってないということ!?」
「要はそういうわけなんですよ!!」
「要は台車を買えないと!?」
「要は変えないんですよ!!」
「……。」
結局永沢は大河から野口さんを2人レンタルした。
「伊藤さんバージョンはないの!?」
「あるわけないでしょ!!」

そして店を出ると、永沢は購入した台車の上に乗っかった。
「はい!出発ーーー!!!」
「なに子供みたいなことやってるの!!」
「……じ、実はあたし、足を2本とも複雑骨折しているの……。」
「どんだけ見え見えな嘘ついてるの!?複雑骨折でそんだけあるけたら奇跡だよ!!」
「……じ、実はあたし、腕1本と足1本を扉の向こうへ……。」
「錬金術ないから!この作品の世界!!」

駅へ戻った二人は台車に七輪を載せ、永沢はやっと持って帰ることができたのであった。

第5話へ続く

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