しゅでん日記!―本線― 第6話「大回り!」 【7月の土曜日】

神山、大河は電車に乗っていた。
「なんで……。」
「あら、なにがかしら?大河。」
「なにがって、なんでこんな朝早くから電車乗ってんの!!まだ6時だよ!6時!」
「始発に乗ったんだから、朝早いのは当たり前じゃない。
だいたい、なんで付いてきてから文句を言うのかしら?」
「バイトに必要な知識を得るために出かけようって言うからじゃん!!」
「必要な知識じゃない。
他の鉄道の車両がどんなものなのか、これを知ることはバイトをやる上で重要よ。」
「ぜんぜん重要じゃないよ!!」

そして電車に揺られる神山と大河。
「紗耶香、今さらだけど一体どこ目指してるの?乗り換えては走り乗り換えては走りばかりで。」
「目的地なんて無いわよ。」
「え!?じゃあなんのために乗ってるの!?」
「なんのために乗るんじゃなくて、言わば乗るために乗ってるのよ。」
「じゃあ聞くけど乗るために乗ってるのはなんのため!?」
「揺れを、音を、景色を楽しむためよ。」
「百歩譲って最後の一つしか理解できないよ!!」

「そういえば、鉄道好きの人って一番前の運転手さんの後ろに乗る人が多いって聞いたけど、
紗耶香は真ん中の車両なんだね。」
「何を言っているのかしら、大河。そんなの、車両によって変わるに決まってるじゃない。」
「しゃ、車両??」
「そうよ。今乗っている車両は先頭車にモーターは無くって、中間車にしか配置されていないのよ。
だから、モーター音を楽しむ場合には中間車に乗るしかないのよ。わかる?」
「え?あ、うん、一応……。」
全く理解していないが、大河はそう答えた。分からないと言えば長々とマニア談が始まりそうな気がしたからである。

「紗耶香、この電車はいつまで乗るの?」
「静かに!」
「え!?」
とりあえず、静かにしていた。
そしてものの数十秒後。
「で、何かしら?」
「あ、いや、えっと、今のは?」
「今の?
あぁ、コンプレッサの音を聞きたかっただけよ。」
「コンプレッサ??」
「コンプレッサっていうのは、電車の空気ブレーキを、」
この時、やってしまったと思った大河であった。
延々とブレーキの説明をする神山。
大河は一応聞いているものの右から左。
「ところでブレーキの音についてなんだけど、最近の電車って言うのは音が、」
まだまだ続くブレーキ談。
「時々乗り心地が悪くて運転下手とかいう人居るけど、回生ブレーキが安定しな、」
ひたすら続くブレーキ談。
「というわけなのよ、分かった?大河?」
「分かったから紗耶香もブレーキかけてよ!!」

次の電車へ乗り換えた二人。
「なんかバスみたいな音がする?」
「気動車だからよ。要は、ディーゼルエンジンで動いているのよ。」
「へぇ〜だからバスみたいな音がしたのか、この電車は。」
「電車じゃないわ、気動車よ。」
「どっちでもいいよ!!」

「ディーゼルの音って、いいわよねぇ。」
「そうだね、かな……。」
「具体的に、どのあたりがいいと思うかしら?」
「え!?
…………えーっと……。」
「すぐ答えられないであんたはそれでも鉄道マニアなの!?」
「違いますけど!?」

なんだかんだいってると、また乗り換える駅に到着した。
「さぁ、今度はこれに乗るわよ、大河。」
「あー、うん。」
電車内。
「いやぁ、やっぱりディーゼルもいいけどVVVFの音も現代的で捨てがたく良い音ねぇ。
特にこの電車、落下しちゃってる辺りがもうなんとも……くぅ〜染みるぅ〜。」
「はは、テンション高いね、紗耶香。」
「私のテンションよりもこの電車の起動時の音の高さの方がもう高くて、でもそこから下がってきて、」
神山の力説は30分もの間続いた。

「ねぇ紗耶香、もうそろそろ専門的な語句とか使うのやめない??
一般の読者がついてこれなくなるから。」
「何を言ってるの、大河。鉄道サイトからしかリンク繋がってないんだから鉄道知らない人間が
アクセスしてくるわけないじゃない。
だから良いのよ、少しくらい専門的でも。」
「ここに一般の僕がいるんだけど!!」

「なら、じゃんけんをしましょう。
あんたが勝ったら鉄道の話はやめて交通の話にするわ。
でも私が勝ったら鉄道の話をつづけるわ。」
「どっちにしても交通なんだけど!!」
「最初はグー、じゃんけん、」
「やらないよ!!」

「仕方ないわね、それなら、明日にでもすぐに周りに言いたくなる鉄道雑学を、クイズを交えて
教えてあげるわ。」
「クイズ形式は確かに面白味があるかもしれないけど、これ小説だからね?分かってる??」
「それでは第1問
日本では鉄道の日が制定されているけれど、その日は何月何日?
@10月14日 A 11月14日 B小説なんだからクイズはやめよう!」
「B!!」
「大河、ちゃんと答えないと辺境の地で降ろすわよ。」
「じゃあ選択肢もちゃんとしてよ!!」

「改めて、鉄道の日は何月何日?
@10月14日 A8月14日 B12月14日」
「いや!さっきの選択肢と共通なの@の10月14日しかないんだけど!!」
「正解。それじゃあ第2問
鉄道の日が制定された理由として当てはまらないものはどれ?
@日本で初めて鉄道が開業した日 A丸の内に鉄道博物館が開館した日 B4つの数字から好きな
数字を選んだ」
「宝くじか!!」
「正解。それじゃあ第3問
鉄道発祥の地と言われている国はどこ?
@イギリス A日本 B群馬」
「国だよね!?」
「それじゃあ第4問」
「まだ答えてないよ!!」
「群馬県を通っていない鉄道路線はどれ?
@高崎線 A上越線 B知りま線」
「Bは無責任すぎるでしょ!!」
「正解、それじゃあ第5問」
「いつまで続くの!?」
「“線路は続くよどこまでも”は元々どこの国の民謡?
@アメリカ」
「…………Aは?」
「じゃあ群馬で。」
「事実上@しか無いじゃん!」
「正解、第6問」
「もういいよ!これ小説だから!!」

そして電車を乗り継ぐこと数時間経ち辺りがすっかり暗くなった頃、東京のとある駅へと到着した二人。
「こ、ここは。」
「あっきはっばらー!」
「テンションMAXなところ悪いんだけど、今日の運賃っていったいいくら??この500いくらの切符しか
買わされて無いんだけど?」
「その切符で出られるわ。」
「え!?うそ!?だってかなりな距離乗ったよね??」
「乗り鉄にとって魔法の制度があるの。そう、それこそ“大回り乗車”!!」
「大回り乗車?」
「ええ、そうよ。ざっくり説明すると、決められた範囲内なら、どんな行き方をしても最短距離の乗車賃
しか取られないの。」
「へぇ〜そうなんだ。
あ、ちょっと売店で飲み物買ってきていい?」
「いいわよ、じゃあ私は先に駅の外に出て駅前のお店で模型見てるから。」
「うん、わかった。」

大河は売店へ行きお茶を買い、改札へ向かい切符を通して出ようとした。
しかし、切符を入れたのに改札の扉が閉まってしまった。
出てきた切符を手に取りもう一度改札に入れるも、やはり同じ結果に。
しょうがないので、大河は窓口の方へ行った。
「あの、すみません、これ出られないんですけど…」
「あ、はい、えーと、駅入ってから時間が立ち過ぎていますね、どこか行きました?」
「どこかって、いろんな所に行きましたけど……。」
「いろんなって言うと、具体的にどこですか?」
「いや、どこって言われましても……。」
神山主導で、大河はそれについて来ただけなので、どこへ行ったのか、どの路線に乗ったのかも全く
分からなかった。
どうにか思いだそうと、しどろもどろになった大河を見て駅員は怪しいと思った。
「よし、じゃあちょっと事務室に入ってきてもらおうか、お客さん。」
「あーいや!ちょっと待ってください!!路線に詳しくないんです!!連れについて行っただけ
なんです!!」
この後、1時間駅員を説得し、ようやく大河は外へ

「あぁぁ…災難だった…」
「あら、今まで何してたのかしら?」
「もう!こっちは大変だったんだから!!」
「でも、私が先に行く時引き止めなかったじゃない。」
「そうだけど!でも大変だったのは事実なんだから!!」
「それよりも、次のお店行くわよ。」

とある模型店に来た二人。
「なかなか見つからないわね……。」
「高っ!相変わらず鉄道模型って高いね……。」
「このお店のは殆ど中古品だから、安い方よ。
まぁプレミアがつけば別だけどね。」
「よく手が出せるよね……。そういえば、給料日前でお金が全然ないって言ってなかったっけ?」
「大丈夫よ、鉄道模型は別枠でとってあるから。
給料のうち7割模型、3割交通費、よ。」
「10割鉄道じゃん!!」

探し物が無かったため、別の模型店へ。
「秋葉原って、結構模型店あるんだね。」
「そうね、INONにホビーアイランドたま、ブルーマックスにN MODELS、あとはヤチヨレールセンターと
熱帯魚かしら。あとは何があったかしら?」
「知らないよ!っていうかもういいよ!」

何件かお店を回っていると、神山はお目当ての物を見つけたそうだ。
「やっと見つけたわ。」
「へぇ〜、見つかってよかったね……高っ、1万5千円越え……。」
「中古だからこれでも定価より少しは安くなっているわよ。」
すると、神山は同じ商品を3つ手に取り、そのままレジへと向かった。
「えっ!ちょ、ちょっと待って!紗耶香!」
「なによ、もしかして、お金負担してくれるのかしら?」
「いや!無理だから!っていうか3つも買うの!?5万円近くだよ!?」
「知ってるわよ。このためにバイトして貯めてるんだから。」
「それに何で3つも!?
まさか、これが噂に聞く観賞用、保存用、布教用!?」
「違うわよ。確かに現時点では中身は全く違いは無いけど、家でそれぞれ違う車両番号をつければ
もうそれは全くの別物よ。」
「違うの番号だけでしょ!?他は全て一緒でそんなに必要!?」
「車両番号っていうのは重要で、人はそれぞれ愛着のある車両番号っていうのがあるんだから。
例えば、」
この後、神山による車両番号についての語りが30分ほど続いた。
語り終わった神山はその3つの模型を手にレジへ向かい、会計を済ませた。
「さて、目的の物は買えたことだし、帰るわよ。」
「あー!やっと帰れる!
今から帰ると着くのは9時くらいかな??」
「何を言っているのかしら、大河。付くのは日付跨いだ頃よ。」
「え!?なんで!?」
「行きも大回り乗車で楽しんで来たんだから、帰りも大回り乗車で電車に癒されながら帰らないと
じゃない。」
「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーー!!??」

こうして、二人は500円ちょいの切符を手に家の方角とは間逆の方向へと出発していったのであった。

第7話へ続く

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