しゅでん日記!―本線― 第12話「大王!」

「春!春だよ!大川君!行楽の春!」
「永沢さん、改札交代しに来たと思ったら何を突然!?」
「いやぁ〜ラーメン食べたくなっちゃってさぁ〜!」
「そっちの幸楽!?」

「それはさておき!春なんだからどっか行きたいよね!こんなに気持ちがいいんだし!」
「まぁね、僕もどこか行きたいと思うよ。」
「なら、電車はどうかしら。」
「いや、それはいいから。」
「なら、鉄道はどうかしら。」
「言い方変えても一緒だから!
っていうか、紗耶香?今日仕事じゃないよね?なんでいるの?どこか行くの?」
「電車が私を呼んでいるのよ。」
「え、あ、そう……。」
「遊びがあたしを呼んでいる!」
「永沢さんは仕事だから!!」

・そして勤務が終わったあと、大河と永沢はどこへ行くか休憩室で話していた。
「永沢さんはここに行きたい!っていうところはあるの?」
「そうだな〜面白そうなところ!」
「雰囲気じゃなくて場所を聞いてるんだよ僕は!!」
「なら、君は行きたいところはあるのかい!?大川君!」
「そうだなぁ、お花見とか?」
「もう散ってるよ?」
「いいんだよ!現実世界ではもう散ってても春ネタなんだから!っていうかソメイヨシノだけじゃ
ないんだし咲いてる場所もまだまだあるでしょ!」
「普通すぎてつまんないよぉ〜!」
「んん、じゃあ……」
「電車にしましょう。」
「行かないよ!!っていうかまだ紗耶香ここにいたの!?」
「勤務を確認しに来ただけよ。
というか、なんで電車はだめなのかしら?ローカル線とか途中下車とか一般的な魅力はいっぱい
あるわよ。」
「でも紗耶香の目的は撮って乗っての車両が目的でしょ?」
「確かに普段の目的はそうだけど、みんなで出かけるならそういう要素を入れてもいいわ。
途中下車して車両工場見学とか。」
「鉄要素しか入って無いじゃん!!」

・3人が話していると、そこに白岡がやってきた。
「おや、みなさん、なんの話をされていたのですか?」
「あ、白岡さん、春で気持ちがいいのでどこか行こうかという話をしていたんです。」
「春の行楽ですか。それなら、こういうのはどうでしょうか?」
「こういうの?」

・そして週末の早朝、3人は駅に集まった。
「まぁすごいわ、私たちだけの貸切電車よ。」
「う、うん……そうだね。」
「3人だけで貸切だー!!」
「う、うん……そうだね。」
「あらどうしたのかしら、大河。貸切なんてリッチな体験、嬉しくないのかしら?」
「いや……別に貸切は嬉しいけど……。」
「だったらなにが不満なのさ!大川君!」
「不満も何も……僕達が乗る電車、屋根無いじゃん!!」
「乗務員室に屋根わあるわよ。」
「乗務員室だけじゃん!!直後から外じゃん!」
「でも幸せの黄色だよ!!」
「色はどうでもいいよ!っていうか僕達乗るところグレーだし!!
なんで荷台に乗ることになるの!!途中で雨がザーザー降ってきたら防げないし花粉もどんどん
降りかかってくるし!そもそも風がすごいことになるでしょこれ!一体何キロで走るつもりなの!!」
「時速100キロ位よ。」
「凍え死ぬわ!!今日は平年を大きく下回る最高気温なんだから!それにまだ朝だし!
それに冬のコート来てるし!!」
「大丈夫だよ!大川君!私は真冬のコートの中に貼れるだけカイロ貼ってあるから!!」
「なにが大丈夫なの!全然大丈夫じゃないよ!!」
「まぁいいじゃない、品川までなんだから。」
「3,40分かかるじゃん!!」
「大丈夫よ、その先は貸切でも団体でも無い普通の電車に乗って行くんだから。」
「っていうかなんで途中までなの!」
「しょうがないじゃん!大川君!新潟までは白岡さんの路線行ってなかったんだから!」
「っていうか白岡さんの父親がこの鉄道会社、しゅでんの社長だったなんてそれが一番の驚き!」
・その時、電車の発車を知らせるブザーが駅に鳴り響いた。続いて、発車のアナウンスも流れてきた。
「まもなく4番線から貸切が発車します。」
「ってなんで貸切の乗客である紗耶香自身が発車のアナウンスしちゃってんの!」
「さぁ理恵、そして大河、つっこみ終わったんなら早く乗りこむわよ、発車しちゃうわよ。」

・出発進行
「っていうか、なんで新潟に行くのか目的を全然聞かされて無いんだけど、何しに行くの?」
「あら、そんなの決まってるじゃない。」
「ズバリ!!ダイオウイカ狩りじゃぁぁぁーーー!!!」
「……え?」

・乗換を繰り返し新潟に到着
「えぇぇぇぇーーーー!!
っていうかなんで二人とも漁師服着てるの!なんで持ってるの!」
「買ったからに決まってるじゃない。」
「大川君だって漁師服着てるじゃん!!」
「どこをどう見ても着てないよね!僕!」
「だって、上下両方私服で両私服!なんちゃって!」
「……。」

「……ねぇ、もう帰っていい?僕。」
「何を言ってんのさ大川君!君はダイオウイカ王になりたくないのかい!!」
「なってどうすんの!!」
「そんなの知らないよ!」
「知らないのかい!!」

「っていうか、ダイオウイカって日本海にいるの?」
「分からないけど、今年に入ってからよく揚がってるからいるんじゃないのかしら?」
「ちなみに!ダイオウイカ出現予報によると今日現れる可能性があるかもよ!」
「なにその予報!?」

「それで、船はどこにあるの?」
「船なんて乗らないよ!」
「え?じゃあなにに乗るの?」
「私たち、今こうして地球に乗ってるじゃない。」
「だからどうした!?」
「要はダイオウイカが流されてくるのを陸地でスタンバってようってことだよ!」
「いつまでスタンバるの!?」
「最終回まで?」」
「どんなストーリー!?完全にダイオウイカに侵略されてんじゃん!」

・そしてとりあえず待つことに。
「なんか飽きたね!全然現れないし!」
「ものの2分でなに言ってんの!!そんな飽き性じゃカップ麺すら待てないよ!」

「ってことで暇つぶしに皆でなにかしようよ!」
「なにかってなに?」
「私はほくほくな電車撮りに行きたいわ。」
「なにそれ!?どんな電車!?っていうかそれじゃあもう目的変わってるし!」
「じゃああれやろうよ!イカごっこ!」
「どんな遊び!?」
「イカ墨ブシャー!!」

「ここは無難にしりとりでもしよう!」
「うわっ!本当に無難だ!」
「じゃあまずはあたしから!
“ダイオウイカ”の“か”!」
「じゃあ次は私いくわ。
じゃあ“鹿島線”で。」
「え……。」

「仕切り直し!
じゃあ“侵略”の“く”!」
「じゃあ“久留里線”で。」
「え……。」

「ワンモア!
“大王”の“う”!」
「じゃあ“内房線”で。」
「なんで全てに線を入れるの!全然僕に順番回ってこないじゃん!」

・それからしりとりをしばらくやっていた3人。
「……る……る……る……。
もう!“る”から始まる言葉なんてないよ!一体誰!こんなに頭使うゲームやろうって言ったのは!」
「自分でしょうが!」
「あ!“る”から始まるのあった!」
「どんな言葉?」
「るーるる るるる るーるる るるる……」
「歌だったぁぁぁーーー!!確かに鉄子違いで隣にいるけれどでも部屋になってないから!」

「もうしりとりは疲れたから別のことしよう!
次は、」
「あ、ねぇ二人とも、あそこになにか浮いてるけれど、一体何かしら?」
「え!どこどこ!?」
「あの白っぽいの?」
「ぎょぎょぎょー!アレはダイオウイカ…」
「この声は!?さかなク、」
「なっしー!!」
「って、○なっしーかい!!」

「そんなのどうでもいいから早く!早くあのダイオウイカ捕まえようよ!!」
「永沢さん、捕る道具は何があるの?」
「用意してなかった!」
「えぇ!?」
「理恵、とったどーとかでよく使ってる“モリ”とか“サマー”とかなにもないのかしら?」
「サマーってなに!どんな道具なの!!」

「あぁどうしよ!早く生け捕りにしないとせっかくのチャンスが!」
「ここは大河に海に降りてもらって、浅瀬まで誘導してもらうのはどうかしら。
私たちは誘導してる間に捕獲用にブルーシート買ってくるから。」
「え!?なんで僕!?」
「だって、主人公じゃない。」
「小説の主人公になるとダイオウイカ捕るために海に入らないといけないの!?
っていうかブルーシート買いに行くのに二人は必要ないよね!?」
「じゃあ、行ってくるわね。」
「え!?ちょ!?本当にやるの!?」

・残された大河は、近くに落ちていた長い木の枝で浅瀬に誘導し始めた。
そして誘導すること1時間、どうにか人が立ち入ることができる浅瀬までダイオウイカを誘導してきた。
「お待たせ―!買ってきたよ!ブルーシート!うわ!でかっ!」
「4メートルくらいかしら?そもそもこれ、一体どうやって持って帰るのかしら?」
「みんなで持つしかないよ!!」
「ごめんなさい、私、カメラより重いものは持ったことが無いの。」
「いつも三脚持ち歩いてたよね!?」

「っていうか、さすがにこれ持って帰るのは無理だと思うよ、永沢さん?」
「う〜ん、そっかぁ……じゃあ、ここで食べちゃおうか?」
「え!?これ食べるの!?」
「それなら、イカのしゅっしゅっぽっぽ焼きにしましょう。」
「いや!そんな蒸気機関車みたいな料理知らないから!」

「持って帰るのも無理、食べるのも無理、じゃあ一体どうしたらいいのさ!!」
「知らないよ!僕に聞かないでよ!」
「あ、ねぇ二人とも、よく見たらこのダイオウイカ、ただの白岡さんだったわよ。」
「おや、みなさんに正体が分かってしまったみたいですね。」
「なにやってんのぉぉぉぉーーーー!!!白岡さん!!」
「ただのバカンスです。」
「“ンス”はいらないよ!このバカンス!」

・結局ダイオウイカを捕まえることのできなかった3人は、ほくほくした電車に乗ってから帰って行った。
ちなみに白岡はまた海に帰って行った。ダイオウイカ姿のダイバースーツを着て……。

第13話へ続く

←作品選択へ戻る